本項では、ブリュースター角の求め方や原理について解説します。
(関連項目として、ブリュースター角を計算するツールを別ページに作成しています。)
ブリュースター角(英:Brewster angle)とは、屈折率の異なる物質の境界面に光が入射したとき、p偏光の光の反射率がゼロとなるときの入射角のことをいいます。
図1に示すように、ブリュースター角を満たす入射角\(\large{\theta_i}\)で異なる屈折率の境界面に入射すると、p偏光は反射せず、反射光はs偏光のみとなります。
ブリュースター角はフレネルの公式でp偏光の反射率がゼロとなる条件で式を解くことで求めることができます。
フレネルの公式から、屈折率\(\large{n_1}\)と\(\large{n_2}\)の物質の境界でのp偏光の反射率Rは以下のように求められます。
$$\large{R={r_p}^2=\frac{{(\tan(\theta_i-\theta_t))}^2}{{(\tan(\theta_i+\theta_t))}^2}}$$
上式の\(\large{\theta_i}\)は入射角、\(\large{\theta_t}\)は屈折角です。ここで、上式の分母の\(\large{\theta_i+\theta_t}\)が90°であるとき、p偏光の反射率はゼロとなります。
つまり、p偏光の反射率がゼロであるときの入射角をブリュースター角\(\large{\theta_B}\)とすると、以下の式を満たします。
\(\large{\displaystyle \theta_B+\theta_t = 90[°]\hspace{10pt}(1)}\)
また、境界面で成り立つスネルの法則から、以下の式が成り立ちます。 $$\large{n_1 \sin \theta_B = n_2 \sin \theta_t \hspace{10pt}(2)}$$ (1),(2)式を解くことで、ブリュースター角を求める公式が得られます。
\(\large{\displaystyle \theta_B=\tan^{-1} \left(\frac{n_2}{n_1}\right)}\)
上式より、ブリュースター角の大きさは入射前後の物質の屈折率の比によって計算されることが分かります。
例えば、空気(屈折率\(\large{n=1}\))から水(屈折率\(\large{n=1.33}\))に光が入射したときのブリュースター角を計算すると約53度となります。 $$\large{\displaystyle \theta_B=\tan^{-1} \left(\frac{1.33}{1}\right)} \approx 53.1[°]$$
(関連項目として、ブリュースター角を計算するツールを別ページに作成しています。)
本章では、ブリュースター角の公式から計算された結果の一覧を示します。
表1に、入射側の物質が空気のときのブリュースター角の計算結果を示します。(屈折率はd線(589.3nm)での値を使用しています。)
入射側物質 | 透過側物質 | ブリュースター角 |
---|---|---|
空気 \(\large{n_1=1}\) |
水 \(\large{n_2=1.33}\) |
53.1° |
空気 | メチルアルコール \(\large{n_2=1.329}\) |
53.0° |
空気 | 石英ガラス \(\large{n_2=1.459}\) |
55.6° |
空気 | ダイアモンド \(\large{n_2=2.417}\) |
67.5° |
表2に、透過側の物質が空気のときのブリュースター角の一覧を示します。
入射側物質 | 透過側物質 | ブリュースター角 |
---|---|---|
水 \(\large{n_1=1.33}\) |
空気 \(\large{n_2=1}\) |
36.9° |
メチルアルコール \(\large{n_1=1.329}\) |
空気 | 37.0° |
石英ガラス \(\large{n_1=1.459}\) |
空気 | 34.4° |
ダイアモンド \(\large{n_1=2.417}\) |
空気 | 22.5° |
ブリュースター角が生じる原理は、光が物質中の電子を振動させたときに光を放出しない方向と、反射光の方向が一致していることに由来します。
光が物質中の原子に入射すると、光の電場によって電子が振動します。図2のように、光の電場は、進行方向に対して垂直に振動するため、物質中の電子も光の進行方向に対して垂直に振動します。
このとき、振動する電子から入射光と同じ振動数を持った光が放射されます。この新たに放射される光を2次光といいます。この2次光は、電子の振動方向には放出されないという性質があります。
1つの原子中の電子が振動し、2次光が放出される場合は、図2のように振動と垂直な方向以外に2次光が放出されます。
一方、多数の原子からなる物質中では、それぞれの原子からの2次光が干渉し合うことで、反射方向と透過方向にのみ光が伝搬します。(反射と透過以外の方向は、2次光が弱め合い光が伝搬しません。)
ここで、物質の境界面で発生する反射光は、透過側の物質で発生した2次光が重なり強め合うことにより生成されます。したがって、図3のように、屈折した光の垂直方向には2次光が発生せず、反射光はゼロとなります。このときの入射光の角度がブリュースター角と定義されます。
先述したブリュースター角\(\large{\theta_B}\)と屈折角\(\large{\theta_t}\)の関係式(\(\large{\theta_B+\theta_t = 90[°]}\))は、屈折した光の垂直方向に反射光が発生しないというブリュースター角の条件がそのまま表現されています。
s偏光にブリュースター角が存在しない理由として、s偏光は境界面に対して水平に振動しているため、どのような角度で境界面に入射しても、電子の振動する方向と反射光の方向が一致しないためと説明することができます。
ブリュースター角の応用例として、カメラのレンズに取り付ける偏光板(PLフィルター)があります。
偏光板は、水面やガラスなどの表面で発生する余計な反射光を低減するために使用されます。
例えば、通常では太陽の光が水面に入射すると、水面で一部の光が反射します。この反射光によって水面が光って見えてしまい、水の中の様子は見えずらくなります。
太陽から放出される光は、様々な方向に偏光をもつ光(無偏光)であり、s偏光とp偏光がどちらも存在している状態です。
水面で太陽の光が反射されると、ブリュースター角付近の角度で入射したp偏光は反射率が小さくなり、図4のように反射光は主にs偏光の状態になります。
ここで、このs偏光の光が遮られるように偏光板を回転させることで、水面からの反射光を小さくし、水面が光らないように撮影することを可能にします。
表1,表2のd線(589.3nm)における屈折率は、以下の文献(1),(2)を参考とした。
・(1)国立天文台『理科年表 平成27年』丸善出版株式会社,平成26年11月30日発行, pp463 光学的性質 光学ガラスの屈折率
・(2)山口重雄『屈折率』共立出版株式会社,昭和56年10月1日発行, pp16 表1-2 いろいろな物質の屈折率(波長=589nm)