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焦点距離の定義と計算

本項では、以下の内容について解説します。

  • ・焦点距離とは何か
  • ・焦点距離の像高、入射角度との関係
  • ・単レンズの焦点距離の計算

【1】焦点距離とは

本章では、光学系の焦点距離の定義について解説してます。

【1-1】焦点距離の定義

焦点距離とは、光学系の主点位置から、無限遠の物体からの光線による焦点までの距離のことをいいます。

図1に、薄肉レンズ(ガラスの厚みを無視したレンズ)に平行光を入射し、焦点に集光する様子を図示します。 薄肉レンズの像側焦点距離

図1.薄肉レンズの焦点距離

図1の\(\large{H}\)は主点を表し、薄肉レンズの場合にはレンズの位置に相当します。焦点距離は、図中の主点\(\large{H}\)から焦点\(\large{F}\)の距離となります。

【1-2】正レンズと負レンズの焦点距離

図2に、正レンズと負レンズに平行光を入射したときの様子を示します。 正レンズと負レンズの焦点距離の説明

図2.正レンズと負レンズの焦点距離

図2に示されているように、正レンズに入射した平行光は集光し、負レンズでは発散します。

負レンズの焦点\(\large{F}\)は、発散した光線を逆側に延長し、光軸に交わる位置となります。
負レンズの焦点距離は正レンズと同様に、図2の主点\(\large{H}\)から焦点\(\large{F}\)の距離で定義されます。平行光を発散する負レンズの焦点距離の符号は負となります。

【1-3】物体側焦点距離と像側焦点距離

厚みのあるレンズや複数のレンズを組み合わせた光学系では、主点は物体側と像側に2点存在し、それぞれ物体側主点\(\large{H}\)、像側主点\(\large{H'}\)といいます。

また、焦点の位置にも、物体側焦点と像側焦点の2点が存在します。

無限遠にある物体からの光線は、図3のように像側焦点\(\large{F'}\)に結像します。この場合は、像側主点\(\large{H'}\)の位置から像側焦点\(\large{F'}\)までの距離を像側焦点距離といいます。 像側焦点距離の説明図

図3.像側焦点距離

【像側焦点距離の定義】

\(\large{\displaystyle \large{f=\overline{F'H'}}\hspace{20pt}(1)}\)

また、像点が無限遠となるときの物体の位置を物体側焦点といいます。この場合は、図4のように、物体側主点\(\large{H}\)の位置から物体側焦点\(\large{F}\)までの距離を物体側焦点距離といいます。 物体側焦点距離の説明図

図4.物体側焦点距離

【物体側焦点距離の定義】

\(\large{\displaystyle \large {f=\overline{FH}}\hspace{20pt}(2)}\)

空気中で光学系を使用する場合、像側主点から像側焦点の距離と、物体側主点から物体側焦点の距離は等しくなり、焦点距離は以下のように表せます。 $$\large{f=\overline{FH}=\overline{F'H'}}$$

液浸対物レンズなど媒質の屈折率を考慮する場合は、媒質の屈折率により焦点の位置が変化します。物体側の媒質の屈折率を\(\large{N}\)、像側の媒質の屈折率を\(\large{N'}\)とすると、媒質の屈折率を考慮した焦点距離は(2)式のようになります。 $$\large{f=\frac{\overline{FH}}{N}=\frac{\overline{F'H'}}{N'}}$$

【2】焦点距離と像高、入射角度の関係

焦点距離\(\large{f}\)は、像の高さ\(\large{Y}\)と光線の入射角度\(\large{\theta}\)と密接な関係があります。

図5に、無限遠の物体から角度\(\large{\theta}\)で入射した光線が、焦点距離\(\large{f}\)の位置に像高\(\large{Y}\)の像を作る様子を図示しています。 焦点距離と入射角度

図5.焦点距離と入射角度

物体側、像側の媒質の屈折率が等しい光学系(例えば空気中の光学系)では、物体側主点に角度\(\large{\theta}\)で入射した光は、像側主点から同じ角度\(\large{\theta}\)で射出します。

光線の角度\(\large{\theta}\)、焦点距離\(\large{f}\)、像高\(\large{Y}\)は幾何学的な関係から式(3)のようになります。

【物体側焦点距離の定義】

\(\large{\displaystyle \large {Y=f\tan\theta}\hspace{20pt}(3)}\)

ここで、像高Yを一定にしたまま、焦点距離を短くした光学系(焦点距離\(\large{f'}\),光線の角度\(\large{\theta'}\))と比較した様子を図6に示します。 焦点距離の違いによる入射角度の変化

図6.焦点距離の違いによる入射角度の変化

図6から、像高が一定の条件で焦点距離を短くすると、より大きい角度の光線が入射していることが分かります。

カメラ用の撮像光学系では、像の位置にイメージセンサーを配置します。図6は、イメージセンサーのサイズを変えずに、焦点距離の異なるレンズを使用した場合に対応します。

図6から分かるように、焦点距離を短くすると、光学系に入射する最大の角度が大きくなることで、撮影可能な範囲が広がることになります。

【3】焦点距離の計算

本章では、焦点距離の計算について解説します。

【3-1】薄肉レンズの焦点距離

薄肉レンズ(ガラスの厚みを無視したレンズ)の焦点距離は、第1面の曲率\(\large{R_1}\)、第2面の曲率\(\large{R_2}\)、屈折率\(\large{n}\)とすると以下のように計算されます。

【薄肉レンズの焦点距離】

\(\large{\displaystyle \frac{1}{f}=(n-1)\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right)\hspace{20pt}(4)}\)

【3-2】厚肉レンズの焦点距離

厚みを考慮した厚肉レンズの焦点距離は、第1面の曲率\(\large{R_1}\)、第2面の曲率\(\large{R_2}\)、レンズの厚み\(\large{d}\)、屈折率\(\large{n}\)とすると以下のように計算されます。

【厚肉レンズの焦点距離】

\(\large{\displaystyle \frac{1}{f}=(n-1)\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right)+\left(\frac{d}{n}\right)\frac{(n-1)^2}{R_1R_2}\hspace{10pt}(5)}\)

上記の単レンズの焦点距離の公式は、レンズメーカーの公式とも呼ばれます。上記の式中の曲率半径や式の導出などについては、レンズメーカーの公式とはで解説しています。

また、組み合わせレンズの合成焦点距離については別の記事で解説しています。
複数のレンズを組み合わせた一般的な光学系の焦点距離の計算は近軸光線追跡によって計算されます。

また、薄肉レンズ、厚肉レンズの焦点距離は、当サイトで公開している【計算ツール】単レンズの焦点距離,主点,体積で計算することができます。

参考文献

近軸光線追跡については以下の資料を参考にした。
・(1)松居吉哉『レンズ設計法』共立出版株式会社,昭和56年10月10日 初版第4刷発行


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